知財飲み会で超えてはならない一線 ~知財の話題はどこまで外部に話してよいか?~

 忘年会の季節がやってきた。コロナ禍が明け、社外の方と飲む機会が増えてくる。知財部の方は、他社の知財部の方と飲む機会が比較的多い気がする。

 私は、企業の知財関係者が集まる飲み会(以下「知財飲み会」)に何度か参加したことがある。最初は、機密事項を扱う競合同士が同じテーブルで酒を飲むことに違和感があったが、無難な話題で仲良く飲んでいる光景に次第に慣れてきた。

 今回のコラムでは、外部との知財飲み会で話題にしてよい範囲や、グレーな領域に迫ってみたい。

 

公開情報は全て話して大丈夫とは限らない

 自社特許に関する技術内容は、特許公報で明らかになっているからといって、ベラベラとしゃべらない方がよい。法的には秘密情報ではないかもしれないが、知財部員など専門家でも他社の特許請求の範囲を読み解くことは苦労する。それを特許権者側の当事者が解説すれば、他者にとって理解の助けになり、異議申立などよからぬアクションに繋がる可能性がある。確定前の裁判の話題についても同様に話さない方がよい。

 

コンプライアンスと品位は別もの

 特許法などの法改正の改悪点や、各種制度のあり様についての悪口は話題にしても問題ないだろう。一方、会社の知財に対する姿勢や上司の悪口は、話すことでストレスを発散できるかもしれないが、コンプライアンス上はOKだとしても身内の悪口は品位を落とすので、ぐっとこらえたいところである。

 また、社員ひとり一人の行動は、会社のブランドを形成する一要素になるので、知財部員であれば、人一倍言動には気を付けてほしい。

 

ツールの話題にはグレーな領域がある

 検索ツールや管理システムに関する情報交換は有効である。こういった使い方をすると便利であるとか、このシステムとあのシステムは相性がよいとか、情報交換することは競合間でもよくある。検索のコツを実演披露することが会社間で行われることもある。コツの類はノウハウとも言えるが、ギブアンドテイクの精神に基づく情報交換であれば、リスクよりもメリットが優ると考える。

 ここで注意したい事は、提供ベンダーとの契約内容である。操作マニュアルが秘密対象に含まれることがある。特に、カスタマイズしている機能については話すことを避けるべきである。万が一、話した相手がその機能について特許出願し特許を取得すると、自社が使用制約を受けるだけではなく、ベンダーから損害賠償を請求されかねない。ベンダーは、一社のためのカスタマイズ機能について発明が含まれていても特許出願しないことが多い。

 

個社毎のルールが優先される

 各種話題について外部に話をしても大丈夫か否か、白黒(一部グレー)を付け、個人的見解を一覧にまとめた。ただし、最終的には関係者との契約や、個社毎の内規や社内ルールが優先される。また、競合会社と直接話す場合と、グループ会社間で話す場合とでは多少線引きの位置が変わる。

 

一番危険なのは同じ会社の社員同士の大声かもしれない

 ランチの時、隣のテーブルで知財の話をしている場面によく出くわす。ランチなので同じ会社の社員同士で会食しているケースが多いと思うが、大声で話していることがある。虎ノ門界隈や東京駅付近でよく遭遇する。聞き耳を立てているわけではないが、これから出願する予定の話や、裁判の話などが漏れ聞こえてくることがある。

 タクシーの中も気をつけたい。特に、地方の企業に向かう際に、その企業の最寄り駅から複数人でタクシーに乗る場合である。地元のタクシーにとって、その企業はお得意様であり、その企業の社員との話は弾む。「そういえば、先日乗せたお客様同士で、こんなこと言ってましたよ~」など。もちろんタクシーの運転手さんにも秘密を守る義務はあると考えるが、タクシーの中では、外部の者が同じ密室にいると認識した方がよい。

 

 いずれにしても、知財関係者同士で意見交換をすることは有意義である。節度をもって楽しんでほしい。そして、酒席への機密書類やノートパソコンの持ち込みは、多くの会社で禁止されているはずなので、知財部員は必ず守ってほしい。

 本コラムの内容は、個人的な見解であることを含みおきいただき、最終判断は自己責任でお願いしたい。

弁理士 高野誠司