IPとしてのコンテンツの価値 ~コラムは3000文字が最適?~

 映画や音楽、電子書籍などのデジタルコンテンツは著作物であり知的財産(IP)である。その知財としての価値は、売上が特定できるものであれば金額で測定できるが、無料やサブスクリプション(定額制)として提供されているコンテンツは、再生回数やダウンロード数、閲覧数(PV数)などが尺度になる。

 この様な数を稼ぐ決め手となる要素としては、映画であれば監督や出演者、音楽であれば作詞・作曲者や歌手、電子書籍であれば著者など、コンテンツにかかわる者(クリエーター)によるところが大きい。

 同じ者が関与するコンテンツであれば、中身によって差が生じることになるが、もし長さ(時間や文字数)が価値に影響を与えるとしたら、最適値が知りたくなるはずである。

 今回のコラムでは、コンテンツの長さと価値の関係などについて、過去のコラムを分析しつつ考察してみたい。

 

コンテンツとは

 広辞苑によれば、コンテンツとは、「①中身。内容。書籍の目次。放送やインターネットで提供されるテキスト・音声・動画などの情報の内容。」とある。

 電子データの形式で分類すると、映画やアニメなど動画データ、音楽など音声データ、写真や図面などイメージデータ、電子書籍などテキストデータに分けられる。特許公報は、特許請求の範囲や明細書のテキストデータと図面のイメージデータがミックスされたものといえる。

 デジタルコンテンツのデータサイズは、メディア側の制約を受けることがある。イメージデータはサイズ(容量)と解像度(情報量)が直結するため、掲載メディアの許容範囲内で情報伝達の目的に沿った最適サイズを探ることになる。

 音声データや動画データでも同様のことがいえるが、これらは単なるデータサイズではなく「長さ」も制約や価値を左右する要素になる。

 

コンテンツの「長さ」

 テキスト・音声・動画の各データには「長さ」の概念がある。テキストデータでは文字数、音声・動画データでは時間と言い換えられる。

 ポップス・歌謡曲の楽曲の長さは、概ね3~4分であり、アナログレコード盤初期の制約や、印税の計算方法が影響している可能性があるが、現在はヒットする曲の「長さ」として3分程度が適当と認知されている。最近ではイントロや間奏が短い楽曲が好まれる傾向にあるそうだ。

 動画コンテンツでは、TikTokの様にメディア側で上限が決められている場合もある一方、映画の様に尺に制限はなくても、多くの作品が2時間前後に落ち着く場合もある。映画館の売り上げを考えれば、長すぎると上映回数が減るため適度な長さがあるようだ。トイレ休憩を挟まず鑑賞できる時間も重要な要素と思う。

 では、テキストコンテンツはどうか。読み手によって読了までの時間が変わる。テキストコンテンツは電子書籍や論文、特許情報など様々で、制約も区々で適切な長さはコンテンツの種類によって異なる。ちなみに、アナログの広辞苑は印刷の厚さ制限(8㎝)からページ数に限りがあり、新語を追加するためには入れ替えが必要になる。

 

コラムの最適な文字数は3000文字?

 オンラインニュースメディアのQuartz社によれば、英文で500ワード以下、または800ワード以上の記事がシェアされやすいとのこと。換言すれば、500800ワードの間に谷があり、シェアされにくいことになる。

 英語の1ワードは日本語の2文字に相当すると考えられる(翻訳会社の料金表など参照)。そうすると、日本語の10001600文字は、シェアされにくい文字数になる。

 はたしてこれは本当だろうか。コラムを書く際には、2000文字までを目安(Wordで2頁)に1500文字程度に収まるよう書き始め、結果としてオーバーすることが多い。新聞社などからコラムを依頼される場合も、編集から2000文字以内の指定が多い。

 サイバーパテントに掲載している過去のコラムで分析してみたところ(図表1参照)、1000文字以下のデータはないが、文字数とPV数に正の相関関係があり(図表1の青点線は回帰直線)、文字数が多いほどPV数が多い。 

 サンプル数が十分ではないが、2次関数で近似すると、谷型ではなく緩やかな山型になり、3000文字を超えた付近にピークがある(図表1の赤曲線)。文字数当たりのPV数で考えると2000文字は悪くない数になる。

 本コラムは、PV数が伸びるよう近似曲線ピーク付近の約3000文字(Wordで3頁)にしてみた。なお、AI翻訳(DeepL)を使って本コラムを英文にしたところ約1500ワードだった。

 

図表1.コラムの文字数とPV数の関係

 

掲載メディアを意識した内容が重要

 ここまで長さに着目して分析・考察してきたが、メディアの制約がない限り、極端に短くあるいは長くなければ、本質的な価値はもちろん中身にある。

 図表2は、サイバーパテントと高野誠司特許事務所に掲載したコラムの最近のPV数上位の一覧である。

 サイバーパテントのサイト訪問者は、同社が提供する特許情報サービスのユーザーが多く、特許業務と直接関係する話題が上位にランクされている。一方、高野誠司特許事務所のサイトは、同業の訪問者が多く、タイムリーな話題が上位を占めている。

 たとえば、サイバーパテントのサイトでは、1年前の再公表の話題が今でもトップにくる。また、12年前の独占排他権の話題が3位につけている。他方、高野誠司特許事務所では、この秋に移転した知財高裁の話題がトップにくる。2位には知財業界で今ホットなコーポレートガバナンス・コード改訂の話題がつけている。

 同じ掲載サイト内での順位を左右する要因には、長さや中身、タイミングの他にその掲載サイトでの誘導方法の違いや外部サイトでの引用の有無が考えられる。著名な方のブログで引用されているコラムのPV数は上がってくる。

 ちなみに、日本経済新聞社のサイトに掲載していた連載コラムでは、ノーベル賞の話題が断トツのヒット数だった。ノーベル賞の話題は何度か取り上げているが、日本人の受賞者が出た年の発表直前に過去の受賞者の特許取得状況をまとめたコラムが、受賞者発表直後に爆発的にヒットした。おそらく発表後の掲載では、ヒット数はそれほど伸びなかったに違いない。

 

図表2.コラムのPV数順位

 

PV数は相対的な評価でしかない

 コンテンツのPV数を増やす上で、SEO対策(GoogleYahoo!等の検索エンジンで上位に上げる対処)が重要であることは言うまでもない。書き手側よりも掲載メディア側の対応や設定によってPV数は大きく変わる。また、検索エンジンでヒットしやすいキーワードやキャッチ-なタイトル、外部のリンク・引用なども重要だ。科学的な分析が欠かせない。

 コンテンツそのものが商材の場合は、PV数を上げるためのプロモーションや中身の充実が必要だが、サイトへ誘導するための集客用コンテンツもある。ブログやコラムもその類といえよう。掲載されるサイトの性質によっては、多数の常連より、新規の訪問者を呼び込みたいこともある。ターゲットを意識した導線が重要になる。また、アクセスしてほしい時期も様々だ。イベントの告知など期限のある話題であれば、ある一定の短期間にアクセスしてほしいが、長年にわたりヒットする方が望ましい話題もある。

 いずれにしても、「数」がコンテンツの価値を示す一つの指標になるが、相対的な尺度に過ぎない。書き手側にできることは、掲載の目的や届けたい読者を意識してテーマを選び、興味を引く中身を心がけることである。

 なお、今回のコラムでは、テキストコンテンツ、そのなかでもコラムといった狭い範囲にフォーカスしたが、映像や楽曲など他のコンテンツでは状況は異なるはずである。デジタル化されたコンテンツの市場規模が急拡大しているため、金額に単純換算できないコンテンツの価値の測定方法は今後重要なテーマになるだろう。

 

 ※本コラムはサイバーパテント株式会社のHPとクロスポストしております。

 

高野誠司