キラキラネーム商標 ~戸籍法改正にみる商標のトリビア~

 戸籍法が改正され、戸籍の記載事項として氏名の仮名表記が追加される予定である。いわゆるキラキラネームの増加に伴い、読み仮名の記載を必須とし、過度な当て字は規制される見通しである。

 先日、ラジオ番組で漢字学者の笹原氏がゲストに招かれ(※1)、戸籍法改正に関連して人名の漢字について話をされていた。本来この様な話は、視覚からの情報の方が分かりやすいはずだが、聴覚からの情報のみのおかげで、むしろ機微な事情が分かった気がする。

 私は職業柄、商標法上の標章(マーク)と称呼(呼び名)の関係はどうなっているのか、商標の称呼に規制はあるのか気になり、商標制度について確認してみた。

 本コラムでは、戸籍法改正情報やラジオ番組から得たトリビア(豆知識)を引用しながら、商標法における標章と称呼の関係を整理した。

 

源頼朝もキラキラネーム?

 近年、キラキラネーム(伝統的でない当て字の名前)が増加し、中には酷い当て字もあり、日本文学や文化への影響が懸念されるところである。

 20233月に戸籍法改正案が閣議決定され、2024年度に戸籍法の一部を改正する法律が施行される見通しである。改正の目玉の一つが氏名の仮名表記が必須になる点である。

 この改正により、漢字氏名には振り仮名を付すことが義務化されるとともに、一定の制限がかけられる見通しである。認められない例として、「太郎」と書いて「サブロウ」、「高」と書いて「ヒクシ」などが挙げられている。

 法制審議会では「源頼朝」の例が話題になったようで、前出の笹原氏によれば、「朝」を「トモ」と読むことは、当時において本来の読みではなく、古くからキラキラネームは存在するとのことだった。人名に用いられる特殊な訓読みは、「名乗り訓」または「人名訓」と呼ばれている。

 

山口百恵(※2)の秋桜(コスモス)は当て字だった

 人名以外にも当て字はあるが、浸透すると辞書に載り、パソコンやスマホでもスムーズに漢字変換できる。例えば、五月蠅い(うるさい)、珈琲(コーヒー)などである。

 歌謡曲に当て字は多い。1997年にリリースされた山口百恵のヒット曲「秋桜(コスモス)」は、作詞作曲さだまさし、プロデューサーは酒井政利であるが、当時の辞書にこの様な読み方はない。しかし、今では多くの辞書に「秋桜」の読み方として「あきざくら、コスモス」と記載がある。

 

商標法における標章と称呼

 実は、登録商標の読み方である「称呼」は、出願人が勝手に決めることができない。標章が判読可能な平仮名や片仮名の場合はそのまま称呼になり、漢字の場合の読み方、すなわち称呼は、特許庁が自然な読み方で付与している(※3)。

 換言すれば、思いつきの当て字の漢字に読み仮名を振って商標登録出願しても、その通りの称呼になるとは限らない。例えば、「あきざくら\秋桜」と二段書きで出願しても、商標公報に称呼として「アキザクラ」の他に「コスモス」が付与されることがある(下図参照)。

二段書き登録商標の例出典:特許庁 商標公報(第5218535号)

 上図は、線香・お香を製造販売している株式会社薫寿堂が、薫料を指定商品として出願し登録された商標の標章であり、商標公報には、

【称呼(参考情報)】アキザクラ、コスモス

【検索用文字商標(参考情報)】あきざくら、秋桜

と記載がある。

 

二段書き商標の留意点

 二段書きの登録商標は、前述の様な漢字と読み仮名の組み合わせの他に、「エ-ビ-シ-\ABC」といった片仮名とアルファベットや、片仮名と英語の例が多数存在する。出願人としては上下各々を商標として使用したいにもかかわらず、2つに分けて出願せず1件の出願で済ませ費用を抑えたい意図がうかがえるが、これはお勧めできない。

 なぜなら、二段書きすると、セットの状態で登録となり、他社が上段のみ、または下段のみの外観で商標を使用しても商標権侵害にならない可能性がある。また、商標権者は原則として登録された外観(二段書きであれば上下セット)で商標を使用しなければ不使用に該当し、取消になるおそれがある(商標法51条)。

 したがって、重要な商標については、使用の態様に沿って商標登録出願をする、すなわち、称呼が同じであっても外観が異なる複数の商標を使用するのであれば、別々に出願すべきである。

 

キラキラネーム商標の使用は避けたい

 人名におけるキラキラネームの増加に伴い、キラキラネーム商標(伝統的な読み方でない当て字の商標)のニーズが高まることが予想される。

 今回の戸籍法改正によって人名については読み仮名を指定できるようになるが、商標法において出願人は商標の称呼を指定できない。

 前述の通り、当て字を用いた商標の読み方は、「特許庁にお任せ」になり、仮に二段書きで出願しても意図通りの称呼になるとは限らない。

 つまり、読み方が一つに定まらない様な当て字の商標は、使用者や出願人が考えを巡らせ思い込めて名づけても、称呼として認識されない可能性がある。したがって、キラキラネーム商標の使用や出願は避けた方がよいと考える。

 

※1 2023年4月12日10時~のTOKYO FMブルーオーシャンに、国語学者・漢字学者の早稲田大学教授 笹原宏之氏がゲスト出演した。本コラムの内容には、この番組からの受け売りが含まれる。

※2 本コラムでは芸能関係者(元関係者含む)の敬称は略しているが、敬意をもって記載している。

※3 商標の「称呼」は、商標に含まれる文字の要素から生ずる自然な読みを特許庁が審査のために付与している。「称呼」は、検索のための参考情報であり、出願人(商標権者)が実際に使用している読み方と異なる場合がある。(出典:特許庁 「既に出願されている商標に付与された称呼等についての問合せフォーム」の補足事項)

 

弁理士 高野誠司