KPIが中間指標と言われる所以(ゆえん)

 KPI(Key Performance Indicator 重要業績評価指標)の起源は諸説あるが、経営管理手法であるバランス・スコアカード(BSC)のフレームワークで用いられ注目された指標である。本来KPIは、企業におけるKGIKey Goal Indicator 重要目標達成指標)を因数分解した中間指標であり、現場の行動目標を定め、進捗を測るための指標である。

 書籍やインターネットなどで、KPIについて「中間指標」の表現を用いた解説をしばしば見かける。筆者もこの表現を好んで用いる

 では、この「中間」とはいったい何を意味するのか、具体例を示しながら説明していこう。なお、本コラムは、弊所が属する業界「知財」に関するKPIに限定したものではない。

 余談ではあるが、筆者は10年を超えるバランス・スコアカードによる会社経営の経験があり、実践を通じてKPIの役割や効能を学び、その重要性を実感している。

 

「中間」には3つの意味がある

 まず1つ目は、KPIを中間指標と表現したときの「中間」は、目標達成時期までの時間軸上の「中間」を意味することが多い。KPIは目標値とセットであるが、いつまでにその目標値を達成する予定か、設定時期があるはずで、その時期までの「中間」である。

 KPIは、PDCA サイクル(Plan-Do-Check-Act cycle)における Check において重要な役割を担う。設定した目標値に対して達成状況をモニタリングし、パフォーマンスの動向を把握するため、ターゲットとする時期までの間、定期的にKPIを用いて進捗状況を確認する。

 次に2つ目は、プロセスの連なりの「中間」を意図してKPIを中間指標と表現することがある。研究→開発→製造→販売→納品といった各工程において、たとえば、製造であれば生産性や不良率、販売であれば顧客訪問数や商談成約率などがKPI候補になり得る。

 そして3つ目は、「中間」が、KGIを因数分解した際の構成要素を意味することがある。たとえば、売上を単純に因数分解すると、売上=顧客数×客単価になる。ここで、顧客数=新規顧客数-解約顧客数であることから、売上=(新規顧客数-解約顧客数)×客単価と表現できる。売上をKGIに定めた場合、解約顧客数や解約率は有望なKPI候補になる。

 

KPIの先にある最終目標は数値目標とは限らない

 KPIはKGIを因数分解したものと考えると、KGIの「I」(Indicator)に引きずられてKPIの先にある最終目標は数字で表現されるものと思いがちであるが、必ずしもそうではない。

 KPIそのものは数値目標を掲げて設定するが、進捗を測る対象である経営目標などは、数値目標とは限らない。たとえば、許認可を得ることや、特定の企業を買収することが経営目標にあった場合、その目標達成に向けたプロセスについて計測可能なKPIを設定することがある。経営目標に資する指標は一般的にKPI候補として認識されている。

 例え話として、受験を題材に考えてみよう。最終目標は志望校に合格することである。強いて数字で表現すれば、0か1、であり、その中間の数字はない。この目標を達成するため進捗状況を測るには、模試の結果である偏差値が有効な指標になる。志望校の安全圏の偏差値が60で、偏差値50の状態から受験勉強を開始したとしよう。受験本番まで4回の模試があるとしたら、1回の模試当たり偏差値を2.5上げることが目標になる。

 ただし、KPIを設定するのであれば、現場の行動や努力が反映される指標とすべきであり、受験の例では、最終目標である合格に繋がる指標であって、かつ受験生の行動や努力が反映される指標がよい。たとえば、過去問10年分の正解率をKPIとし、本番の半年前までに80%、1カ月前までに100%といった目標を設定し進捗を定期的に確認する。

 

KPIは非連続な目標に対する中間指標として本領を発揮する

 たとえば、健康のため1年で5kg減量する目標を立てたとして、毎日体重を測り進捗を確認することに意味はあるが、最終目標に直結し連動する指標、この例では「体重」はKPIとは言えないのではないか。もちろん、KPIは目標に繋がる因果パス強度が強い方がよいが、KPIから目標達成までの因果パスにロジックやストーリーがないものは、わざわざKPIに設定する意味はない。

 これまで述べてきた様に、様々な意味において中間指標であってこそKPIといえよう。特に、許認可や受験の例の様に、合否などがはっきりし、中間的な表現ができない目標に対して進捗状況を数値で見える化する、換言すれば、非連続な目標に対して途中経過を連続的に表現できるKPIを策定することによって、KPIの本領が発揮される。

 この様な特性に基づき、KPIが中間指標と言われる所以と考える。

 

弁理士 高野誠司