キャラクターに著作権はない!?

 今回のコラムでは、私自身の勉強も兼ねてキャラクターに関連する知財権について扱ってみたい。このテーマを取り上げたのは、弁理士会の研修での講師の発言に端を発する。

 講師の方が「キャラクターには著作権がないので~」と当たり前の様に話を進めた。私は著作権についてある程度の知識はあるつもりでいたが、この表現を聞いたときに自分の耳を疑った。

 漫画家や著作権の専門家にとっては当たり前の話と思うが、アニメや漫画などに登場するキャラクターそのものは著作物ではない。

 正直なところ、私はこのことを理解するのに時間を要した。他の方にとっても理解するのは難儀かと思い、判例を引用しつつ要点を整理してみた。

 

漫画などに登場するキャラクターとは何か。

 キャラクターとは、広辞苑によれば「①性格。人格。個性。キャラ。②小説・映画・演劇・漫画などの登場人物。その役柄。③文字。記号。」であり、英語のcharacterを英和辞書で調べても同じ様な内容が記載されている。

 漫画のキャラクターとして思い浮かべるものは年代によって異なると思うが、「ポパイ」「サザエさん」「ドラえもん」などは著名であり、このコラムの読者のほとんどが知るところであろう。本コラムはこれらのキャラクターを念頭に記載している。

 

判例でキャラクターはどのように扱われているか?

 平成9年の最高裁判決において、「登場人物のいわゆるキャラクターをもって著作物ということはできない」としている(最高裁判所第一小法廷判決 平成4年(オ)第1443号)。その理由として、「キャラクターといわれるものは、漫画の具体的表現から昇華した登場人物の人格ともいうべき抽象的概念であって、具体的表現そのものではなく、それ自体が思想又は感情を創作的に表現したものということができないからである」と記している。

 著作権法第2条第1項第1号には「著作物 思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。」と定義されている。最高裁では、キャラクターは著作物の要件である「思想又は感情を創作的に表現したもの」を満たさないと判断している。

 一方で、「一定の名称、容貌、役割等の特徴を有する登場人物が反復して描かれている一話完結形式の連載漫画においては、当該登場人物が描かれた各回の漫画それぞれが著作物に当たる」としている。

 

では、漫画でなければキャラクターを自由に使えるのか?

 上記最高裁の判決内容から、キャラクターを具体的に表現した漫画は著作物に該当する。オリジナルの漫画を第三者が無断で複製すれば著作権侵害になるが、ではどの程度利用すると著作権侵害になるのか。

 

東京地裁 昭和 46 () 151号 目録抜粋

出典:最高裁判所「東京地裁 昭和 46年 (ワ) 151号 目録

 

 キャラクターの具体的表現に関連する裁判例としては、いわゆる「サザエさんバス事件」がある。漫画の登場人物であるサザエさん、カツオ、ワカメの頭部画をバスの車体に描いて著作権侵害と認定されている(昭和51年東京地方裁判所判決 昭和 46年 (ワ) 151号)。

 この裁判例では、『誰がこれを見てもそこに連載漫画「サザエさん」の登場人物であるサザエさん、カツオ、ワカメが表現されていると感得される』とし、特定の齣(こま)の中の頭部画と対比するまでもなく、登場人物のキャラクターが表現されている、と判断している。つまり、漫画の完全なコピーではなくても、登場人物と感得できる程度の著作物の利用について第三者は制約を受ける。

 他方、最高裁の判決内容を文字通り解釈すれば、「漫画の具体的表現」ではない、たとえば「どら焼きが大好きな、青い、ネコ型」を特徴とするロボットを第三者が小説の中で登場させることは、問題ないことになる。

 ただし、その小説のストーリーがドラえもんの漫画のストーリーと同じ、あるいはセリフなど文字としての表現が同じ部分は、別の観点で著作権と抵触するおそれがある。いわゆるネタバレサイトの様に、キャラクターの名称や仕草に加え、粗筋や具体的なセリフを文字で無断掲載するケースも同様である。

 

まとめ

 ドラえもんを例にすると、その個性である、どら焼きが大好きな、青い、ネコ型ロボット、などの特徴を組み合わせた抽象的な概念、すなわちキャラクターそのものに著作権はないが、ドラえもんの漫画やイラストなど、キャラクターを具体的に表現したものには著作権がある。ここで「著作権がある」とは、著作物として著作権法で保護され得ることを意味する。

 

登録商標(登録番号1625340

出典:サイバーパテント株式会社「サイバーパテントデスク

 

 今回のコラムで詳しくは触れなかったが、キャラクターの名称「ドラえもん」については商標法で保護される(上記標章は、「ドラえもん」の登録商標のなかで最も古いもの)。また、偽キャラクターグッズなどは、著作権法や商標法のほか不正競争防止法で排除できる場合がある。なお、肖像権については、具体的に規定した法律はないが、人権の一種であることから、ヒトではない漫画などのキャラクターは保護対象外と考える。

 ※本コラムはサイバーパテント株式会社 のHPとクロスポストしております。

高野誠司