知財高裁が移転 ~事務所所在地への影響~

 202210月、知的財産高等裁判所(知財高裁)が、中目黒に移転する。東京高等裁判所の支部である知財高裁や東京地方裁判所の民事各知的財産権部等が移転対象だ。

 東京高等裁判所・地方裁判所がある千代田区霞が関は(「ヶ」を間に入れた「霞ヶ関」は地名ではなく駅名)、官庁街であり弁護士が事務所を構えることができる物件が少ないため、隣に位置する港区虎ノ門に法律事務所が多数存在する。加えて、特許庁の最寄り駅が虎ノ門であることから、知財を扱う弁護士や弁理士にとって虎ノ門は事務所を構える有力な候補地になる。

 その一方、虎ノ門にある物件は小規模なビルが大半で、まとまったフロアを確保することが難しいため、大手の法律事務所や特許事務所に限ると大型ビルが林立する東京駅西側の千代田区丸の内や大手町に構えることが多い。

 コロナ禍によって裁判所や特許庁に足を運ぶ機会が減り、テレワークやリモート手続きが定着すると、「地の利」を活かす機会が減ると考えられるが、シンボリックな知財高裁の移転によって、知財業界、特に事務所所在地に何か変化が起きるだろうか。局地的な話題にはなるが、今回のコラムで私なりに分析してみた。

 

虎ノ門に事務所を構えるのはステータス?

 「ドラゴン桜」で主人公の桜木弁護士が、「弁護士の最高ステータスの虎ノ門に事務所を構えるぞ!」(出典:三田紀房「ドラゴン桜」モーニングKC)と言うシーンがある。背景には東京タワーが描かれている。なお、東京タワーは虎ノ門と隣接する港区芝公園に存在する。

 虎ノ門は弁護士・弁理士における特別なエリアなのかもしれない。

 「虎ノ門」の地名は、江戸城の外堀にあった城門の名前に由来する。虎ノ門は一丁目から五丁目まであり、このエリアはバブル時代の地上げの爪痕が随所に確認できる。最新のビルの横に民家や老舗店、そして空き地やコインパーキングが点在する。

 現在、高さ日本一のビルを建設中の「虎ノ門・麻布台プロジェクト」のエリアは、以前は木造住宅の密集地だった。虎ノ門は再開発が目白押しで、ドラゴン桜で描かれていた時代とは雰囲気が変わりつつある。今は土日祝日に人通りが少ない街であるが、再開発が完了すると街のイメージはガラリと変わるだろう。

 

事務所はどこに分布している?

 弁理士登録している方の事務所がどこに分布しているか弁理士会が運営する弁理士ナビを使って調査した。図表1は、弁理士が所属する事務所(法律事務所含む)所在地の都道府県ベスト10である。クライアント企業、特に製造業の所在地との関係が深く、大都市圏に集中していることがわかる。この調査結果は予想通りで、それほど興味深いものではない。

 

図表1.事務所所在地(都道府県)ベスト10

出典:日本弁理士会の弁理士ナビを使い高野誠司特許事務所が調査(2022年8月) 値は事務所数

 

 そして、図表2は、東京都の町名(丁目は集約)で事務所の分布を調査した結果である。同率第6位の丸の内・新宿(39事務所)と第8位の新橋(27事務所)に隔たりがあるため、ベスト7としてまとめた。

 

図表2.事務所所在地(町)ベスト7

出典:日本弁理士会の弁理士ナビを使い高野誠司特許事務所が調査(2022年8月) 値は事務所数

 

 ここで一つの特徴が見えてくる。それは、東京高裁・地裁と特許庁の両方へ徒歩圏である虎ノ門と西新橋を除くと、他の町は全て丸の内線沿線に位置することだ。実は、特許庁の最寄り駅は銀座線の虎ノ門駅となっているが、丸の内線の国会議事堂前駅からも特許庁までは同程度の距離である。そして丸の内線の駅には霞ヶ関もある。つまり、第1位から第7位までの町は、特許庁と移転前の知財高裁等に徒歩か丸の内線で行けるのだ。

 事務所を構えるにあたっては、大局的には顧客重視で、局地的には手続きの利便性を重視していると考えられる。

 

中目黒といえば

 知財高裁の移転先である中目黒といえば、桜の名所である目黒川が流れ、最寄りの中目黒駅(住所は目黒区上目黒)周辺は、グルメ街としても知られている。

 中目黒といっても、知財高裁が移転する先は、華やかな駅北西側ではない。地図で見ると目黒川沿いに位置するが、花見で賑わう様な店はほとんどない。ただ、綺麗な桜を見ることができる穴場である。

 移転後の知財高裁等と特許庁を結ぶ路線は日比谷線になる。なお、2020年に日比谷線で開業した虎ノ門ヒルズ駅は特許庁に近く、銀座線の虎ノ門駅と同じ駅扱い(乗換駅)である。また、虎ノ門五丁目には日比谷線の神谷町駅もある。

 そう考えると、今後知財に関わる事務所選びで日比谷線が注目され、特許庁と知財高裁の間に位置する六本木(事務所数239位)に事務所を構える弁護士・弁理士が増えるかもしれない。そして、日比谷線の駅が2つもある虎ノ門は、知財高裁移転後も引き続き首位を維持することになるに違いない。

 

 ※本コラムはサイバーパテント株式会社のHPとクロスポストしております。

 

高野誠司