サマーストックと知財 ~猛暑関連銘柄~

今年の夏の気候はどうなる?

 昨年(2023年)の春からエルニーニョ現象が続いている。エルニーニョ現象の下では冷夏になりやすいが、昨年の夏は、正のインド洋ダイポール現象によって打ち消され、猛暑になった。今年(2024年)の春頃からエルニーニョ現象が終息に向かい、夏には平常に戻りそうだ(気象庁「エルニーニョ監視速報」参照)。そして、ダイポール現象もピークは過ぎている(気象庁「Dipole Mode Index」参照)。

 普通に考えると、今年の夏は冷夏にも暑夏にもなりにくく、異常気象は発生しないことが予想される。地球温暖化により、猛暑になると予測する専門家もいると思うが、昨年よりは過ごしやすい夏になると考える。

 

サマーストックって何?

 気温が高くなると取引量が増える製品がある。それらを取り扱う企業は、夏場が稼ぎ時で、夏季、特に猛暑になると株価が上がる銘柄はサマーストックと言われている。典型的な製品としては、エアコンやビールが挙げられる。アイスクリームや清涼飲料水を扱う企業も関連銘柄に含まれる。

 

エアコンとビールの需要予想

 エアコンの需要は、蒸し暑くなると高まる。今年の夏は気候が安定していると考えれば、特需はないだろう。また、昨年慌てて購入した人が多かったことから、需要を先取りした感はある。したがって、エアコンの需要は平年より少ないと予想する。

 夏季のビールの需要は、平均気温と正の相関関係があることが広く知られている。また、気温と湿度から求められる蒸し暑さの指数である不快指数とも正の相関関係がある。不快指数は俗に「ビール指数」と言われている。ビールの需要は平年並みか平年を下回ると予想する。

 

特許の価値が反映されるYK値

 エアコンは、春に暑くなったり初夏が猛暑になったりすれば品薄になり、納期が重視され、機能は二の次になる。値引きがなくても、いわゆる型落ちであってもよく売れる。

 しかし、今年の夏が平年並みの気温湿度であるとすると、エアコンであれば何でも売れるわけではなく、高機能や省エネといった付加価値が競争の源泉となろう。ビールについては鮮度や味が重視されるに違いない。

 製品に関する機能など付加価値を測る指標の一つとして、特許の取得状況が挙げられるが、単なる件数では真の価値は図れない。競争相手にとって障害となる特許をどれだけ保有しているかが重要になる。

 競合相手は、事業の障害となる特許出願を公報で発見すると、特許庁に対して情報提供を行い、特許が成立すれば特許異議申立を行い、更に紛争になれば無効審判を行う。事業活動が制限される危険度が高まると、より多くのコストを費やして特許を潰そうとする。 

 第三者が起こしたアクションのコストを計算できれば、その特許の価値を数値化できるに違いない。この様なコンセプトに基づき、工藤一郎国際特許事務所によって開発された指標がYK値である。

 

サマーストックのYK値

 エアコンメーカーとビールメーカーの特許取得状況について、YK値を用いて比較してみたい。

 エアコンは、三菱電機など総合電機メーカーでも製造しているが、サマーストックの観点から家庭向けエアコンを事業の大きな柱にしているダイキン工業と富士通ゼネラルを調査対象とする。

 一方、国内ビール市場は大手4社でシェアの大部分を占めるが、サントリーホールディングスは非上場企業であるため除いて、サッポロホールディングス、キリンホールディングス、アサヒグループホールディングスを調査対象とする。

 

サマーストックのYK値比較

 出所:各社の時価総額とPBRは、2024年3月25日終値  各社のYK値は、2024年3月25日、特許価値評価WEBサービス「PATWARE」にて証券コードで検索した結果  各社のYPRは、YK値を時価総額(億円)で割った値

 

 上表が比較結果である。会社規模が大きくなれば特許の取得数が多くなり、各特許価値の総計である企業YK値も大きくなる。そこで、YK値を時価総額(億円)で割った指標YPRを便宜的に用いて比較してみた。

 ここで、PBR(株価純資産倍率、単位は「倍」)は、株価を1株当たり純資産で割った値であり、換言すれば時価総額を純資産で割った値で、1倍を超える部分には、簿価に表れない投資家の付加価値への期待が反映されている。

 

特許の価値は既に織り込み済みか?

 もし、YK値が高い割に株価が割安で放置されていれば、お買い得かもしれない。しかし、エアコン2社比較においても、ビール3社比較においても、YPRの高い企業は、PBRも高い。ビール3社でYPRが突出するサッポロホールディングスは、PBRも他の2社を大きく上回る。したがって、調査対象企業の特許の価値は、既に株価に織り込まれている可能性がある。

 エアコン2社をYK値で比較すると、ダイキン工業が圧倒している。富士通ゼネラル以外の総合電機メーカーと直接比較をしていないが、独占排他力が強いとすれば、需要が減っても比較的影響を受けにくいと考える。

 ビール業界は、3社ともYK値が拮抗しているため、気候変動によってバランスが大きく崩れることはないだろう。会社規模が比較的小さいながらもYK値で他社と張り合っているサッポロホールディングスのPBRが高いのもうなずける。

 

 あくまでも私見ではあるが、この夏、サマーストックに大きな注目が集まることはないだろう。エアコン業界は低調であってもダイキン工業が高機能製品によってシェアを高める可能性がある。ビール業界は平年並みの需要であり、仮に気候変動が想定以上であっても、上場3社のシェアに大きな変動はないと予想する。

 

 本稿で分析に用いたデータは、必ずしも十分な標本数ではなく、記載内容は正確性・完全性・再現性を保証するものではない。また、特定企業の投資を勧誘、あるいは投資手法を指南することを意図していない。弊所及び弊所附属研究所は、投資助言・代理業の登録はしていない。本稿に記載の情報を利用して、又は参考にして本情報利用者が行った投資、売買、借入その他一切の取引又は事業等の結果につき責任を負わない。

 

気象予報士・弁理士 高野誠司