国語・算数・理科・社会・英語のなかで「最も重要な教科は○○だ」と言うことは簡単であるが、二番目に重要な教科を示すことはできるだろうか? 例えば、「全教科の試験問題文を正しく理解し回答するために国語が最も重要である。」「お金の計算ができなければ生活に困るから算数が最も重要である。」「点差が開きやすい英語が最も重要である。」などと子供が聞かされたらどう思うだろうか。「どの教科が一番重要で、二番目は?」とならないか。
企業における中期経営計画や知財戦略、統合報告書などでも同様のことが起きていないだろうか? トヨタ自動車の統合報告書2025には、「安全・法令・品質を守ることは、お客様に安全・安心をお届けするために最低限かつ最重要です」という記載がある。確かに、安全・法令・品質の順位はつけにくい。「法令は最低限、安全は最重要」として順位を曖昧にすることはできても、「品質」を外すことには勇気が要る。
ヤマトグループの「安全第一、営業第二」の理念は有名である。安全確保を営業活動よりも優先させる趣旨である。宅急便の生みの親として知られている故小倉昌男氏の著書によれば、営業を優先しドライバーの事故が増えていたことを憂い、二番目に重要なことを示すことによって、最も重要なことを際立たせたかったようだ。この標語を掲げてから事故が減り、以前より業績が伸びたという後日談がある。
昨今の人的資本経営ブームにより、統合報告書で「最も重要な財産は社員である」と謳う企業が散見される。IHIは経営理念に「人材こそが最大かつ唯一の財産である」を掲げている。では、そういった企業で「知的財産」はどのように位置付けられているのだろうか。
知的財産は、人による知的な創作活動によって生み出されるものである。優秀な人材によるイノベーションによって卓越した知財が生じる。人材が知財よりも優先されることに異論はない。「人材が弊社にとって最も重要な財産である」と記載している傍で、「弊社では知的財産を最も重要な財産と位置付けている」などと謳えば、場当たり的な表現と捉えられるだろう。
前述のヤマトグループの理念では、一番大切なものを際立たせるために、二番目を示す意図があったが、逆に二番目を際立たせるために、一番目をあえて示してはどうか。つまり、企業が最も重要な財産と認識している人材を引き合いに、知財がそれに匹敵する極めて重要な財産である、といった認知を広める効果を狙って、潔く「人材の次に重要な知財」や「二番目に重要な財産は知的財産」と高らかに掲げてみてはどうか。
弁理士 高野誠司