コーポレートガバナンス・コード改訂 ~知的財産の視点から2026年のCGC改訂を読み解く~

 2026721日、上場企業の統治指針を示すコーポレートガバナンス・コード(CGC)が改訂された。前回の20216月の改訂から5年経つため、タイミングは規定路線だ。

 これまで、CGCは「基本原則」「原則」「補充原則」「考え方」の4階層となっていたが、今回の改訂では「補充原則」がなくなり、「基本原則」「原則」「解釈指針」の3階層になった。素案の段階で、「知的財産」について記載されていた補充原則がなくなったことで話題になった。

 当初の改訂案において、「知的財産」は、最下層の「解釈指針」にのみ記載されていたことから、外形的には格下げ扱いになっていたが、関係者の働きかけもあって、最終的には、上から2つ目の階層である「原則」に記載された。改訂前は上から3つ目の階層に記載があったことを考えると、今回の改訂で知的財産は格上げされたといえる。

 今回のコラムでは、紆余曲折ありながらも、知的財産が我が国の成長戦略にとって欠かせない重要なものと位置付けられたCGC改訂について、知的財産の視点から読み解いてみたい。

 

改訂前のCGCのおさらい

 前回の2021年6月のCGC改訂では、初めて補充原則に「知的財産」の文言が記載され話題になった。

改訂前CGC補充原則3-1出典:旧コーポレートガバナンス・コード

 改訂前CGC補充原則4-2

出典:旧コーポレートガバナンス・コード

  上記の通り、補充原則3-1③には、「知的財産への投資等についても、自社の経営戦略・経営課題との整合性を意識しつつ分かりやすく具体的に情報を開示・提供すべき」とある。また、補充原則4-2②には、「取締役会は、(中略)知的財産への投資等の重要性に鑑み、これらをはじめとする経営資源の配分や、事業ポートフォリオに関する戦略の実行が、企業の持続的な成長に資するよう、実効的に監督を行うべき」とある。

 平たく言うと、知財投資等について情報開示しなさい、取締役会で監督しなさい、ということになる。

 

改訂前のCGCの課題

 知的財産投資等に関する情報開示について規定されていた補充原則3-1③には、「人的資本」や「気候変動」に関する事項が含まれているため、たとえば、気候変動に関する事項については準備中であることを理由に、当該補充原則全体をExplain(非遵守理由を説明)する企業があった。

 また、「人的資本」と「知的財産」が併記されていることから、「人的資本や知的財産への投資等について」と題して、人的資本に関する記載に終始し、知的財産に関する記載が一切ない企業があった。全ての原則をComply(遵守表明)しておきながら、知的財産について何も記載しない「エセコンプライ」が多数あった。この点については、CGCを補足する「知財・無形資産ガバナンスガイドライン」(以下「ガイドライン」)でも問題視されている(下図参照)

 エセコンプライ問題

出典:知財・無形資産ガバナンスガイドライン P9

 

今回の改訂内容

 今回の2026年7月21日のCGC改訂では、「知的財産」の文言がCGCの「原則」に記載され、改訂前の上から3番目の階層から2番目の階層に格上げ扱いとなった。

 改訂後CGC原則4-1.

出典:2026年7月21日付コーポレートガバナンス・コード

  上記の通り、原則4-1.には、「取締役会は、経営戦略や経営計画の策定・公表に当たっては、成長の実現を目指し、自社の資本コストを踏まえて収益計画や資本政策の基本的な方針を示すとともに、収益力・資本効率等に関する目標を提示し、その実現のために、成長投資(設備・研究開発・人的資本・知的財産等の無形資産への投資等)や事業ポートフォリオの見直し等の経営資源の配分等に関し具体的に何を実行するのかについて説明を行うべきである」と記載されている。

 また、解釈指針には、「知的財産」の表現が2か所ある。具体的には、「()投資対象を自社の内部に求めるのか(設備・研究開発・人的資本・知的財産等の無形資産への投資等)、外部に求めるのか(M&A・業務提携・スタートアップ出資への投資等)といった観点、()短期・中長期といった観点、()国内投資(地方への人的投資・地方拠点の整備等)、国外投資といった観点等の多様な投資機会があることを十分に認識すべきである。なお、知的財産等の無形資産への投資については、競争力や企業価値向上の源泉であることを踏まえ、その創出・取得・強化・保護・収益化に戦略的に取り組むべきである。」と記載されている。

 

今回のCGC改訂の趣旨

 知的財産に限らず、今回のCGC改訂の根幹には、企業に対して、利益を内部留保として貯め込まず成長投資に回してほしい、経営資源を効率的に活用し、取締役がきちんと関与せよ、といった思いがあると理解した。

 知的財産の視点で読み解くと、成長の実現に向けて、知的財産等の無形資産への投資や、事業ポートフォリオの見直し等の経営資源の配分に関して、具体的に何を実行するのかを説明し、そのことを取締役会で監督することの表明が求められる。

 

今回のCGC改訂の課題

 相変わらず知的財産は「人的資本」と併記されている。前述の通り、CGC改訂前は、CG報告書において「人的資本や知的財産への投資等について」を見出しとして人的資本の記載に終始する企業が散見された。今回のCGC改訂では、「人的資本」に加え、「設備」や「研究開発」についても併記されたため、「設備・研究開発・人的資本・知的財産等の無形資産への投資等について」と題して、「知的財産」に関する記載内容が以前より薄まる可能性がある。

 また、20264月に公表された東京証券取引所の「コーポレートガバナンス報告書の更新について」(以下「東証の考え」)によると、廃止される従来の開示原則として「サステナビリティについての取り組み等(補充原則3-1③)」が挙がっており、そしてCGC改訂後の原則4-1.は、「開示原則」として掲載されていない。

 

CGC改訂後に予想されること

 東証の考えによれば、今回のCGC改訂を踏まえたCG報告書の提出期限は、2027年7⽉末⽇である。2026年に先行してCGC改訂版のCG報告書を提出する企業が出てくることが予想される。この1年間は、CGC旧版と改訂版の両方のCG報告書が混在することになる。見分け方としては、「補充原則」の見出しがあるか否かで判断できる。改訂版には「補充原則」がないからである。

 また、全ての原則をComplyしておきながら、原則4-1.について開示を行わない企業が相当数出てくることが予想される。改訂前の補充原則4-2②の開示状況から簡単に想定できる。CGC改訂前の補充原則4-2②については、開示原則として挙がっていなかったため、多くの企業がCG報告書に記載しなかった。2025年の調査では、Comply企業のうち、実に85%の企業が補充原則4-2②についてまったく記載がなかった。

 さらに、CGCを補足するガイドラインも改訂されることが予想される。ガイドラインは、前回のCGC改訂の後、20221月にVer.1.0が公表され、20233月にVer.2.0が公表された。今回のCGC改訂でも同様の趣旨で新たなガイドラインまたは新バージョンが追って公表されるはずだ。

 そして、有価証券報告書に対して、知的財産に関するテコ入れが噂されている。今回のCGC改訂では、十分な検討・議論に至っていないが、関係者の話を総合すると、5年後のCGC改訂の際に、この話題が俎上(そじょう)に上がりそうだ。

 

 時代とともにCGCを改訂すること自体は望ましいが、前回の改訂趣旨が企業に十分理解されず定着しないまま、関連規定が入れ替わった印象を受ける。CGCは、上場企業の統治指針であり、その改訂は我が国の産業の底上げにつながらなければ意味がない。そのためにも、CGC改訂による効果検証は重要である。知的財産などの無形資産が企業成長に欠かせない源泉であることを、今回のCGC改訂を通じてあらためて広く認識されることを期待したい。

 

 弁理士 高野誠司